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子供漫画の超えられない壁と悪癖が作品を殺す?
戦前は大人漫画と子供漫画というのは明確に別のものであって、たとえば新聞に掲載される四コマや風刺漫画のようなものは大人漫画であって、少年倶楽部に掲載された田河水泡の『のらくろ』みたいなものが子供漫画だった。もちろん子供でも大人漫画は読んでいたわけで、横山隆一の『フクちゃん』のようなものは子供にも人気だったし、子供時代の手塚治虫も多くの大人漫画の大ファンだった。やがてその手塚治虫が子供まんが家としてデビューすると御存知のように大人気作家になる。そうすると誰も彼もが子供向け雑誌に掲載される手塚のまんがを追うし、そのフォロワーも子供まんが家を目指すようになるわけで、戦後の日本漫画界はすっかり子供まんがが主流になってしまった。
そんなわけで漫画は「読者はいずれ卒業する」ことを前提に発表されるコンテンツとしての意識に振り回される時代が長く続いた。だから人気連載でも5年も連載すれば限界とみなされてきた。高校生以上の読者が漫画を読むなんてことはありえないし、むしろそういった大人の読者が増えてきては子供向け雑誌としての健全性が損なわれるという警戒心すらあったのだ。
それも80年代以降は週刊少年誌などの高年齢読者の増加という時代を迎えて意識が変わってくる。読者が大人になっても漫画を卒業せずに読み続ける流れは止められないし、そもそもそれに水を差す必要性がどこにあったのかと。そして少子高齢化というどうしようもない現実がトドメを刺す。とにかく次の世代、次の世代と、若者や子供の方を向いた新規開拓事業がバラ色だった時代は終わったのだ。それは漫画だけに限ったことではなかった。
コロコロコミックなどの低年齢向け漫画雑誌はきわめて苦しい時代になったと言わざるをえない。コロコロコミックなどと言ったけれど、実を言うと他にほとんど競合誌も残ってないし、最大のライバルだったコミックボンボン誌も今は無い。自らを低年齢向け漫画というジャンルに追い込んでしまった以上、いくら作品が面白くとも、読者の卒業を念頭に置くという昔ながらのスタイルを捨てるのが難しい。そうでなくても、子供向けのアニメや商品展開のタイアップで仕掛けた漫画は、半年や一年のタイムスケジュールで切り捨てなくてはならないことが圧倒的だ。ただでさえ月刊漫画という不利な形態である。これだけハンディキャップを背負っているから、これらの漫画誌から長期的ヒット作が生まれることは極めて少ない。
タイアップするとなぜ短期で打ち切られなくてはならないかというと、スポンサーの玩具会社が一年ごとに新しい玩具を売りたいからだ。ゲームだったら売れればポケモンのように、似たような続編をぽんぽこ出して行くという方式でいくらでも稼げる場合もあるけど、玩具はなかなか壊れるもんじゃないから買い替えはしてもらえない。だから新商品が発売された時に、こんどは前に出した自社製品が邪魔になってくる。とっくに販売終了したような自社製品のブランド価値を保とうとするような漫画は悪以外の何者でもない。そんなわけでタイアップの終わった漫画には死んでもらいたいわけだ。これが次々と買い足していっても支障の無いタイプの玩具だったらもう少しスポンサーの態度もゆるくなる。新キャラが出る度にコレクションで買いたくなるようなやつだ。昔あったZOIDSなんかはそういう意味では優秀だったのだろう。そしてなんといっても今はカードゲームが最高だ。原価も安いし。紙だし。遊戯王のブランドが長く続いているのはそのためだ。
子供というのはいずれ大人になるという考えのもとに、しょせん長く付き合う顧客ではないという焼畑農業的な考え全般が、子供向け漫画事業に携わっている者の悪癖と考えて間違いない。そういう姿勢があるかぎりは、いきおい子供だましと言われるものに墜ちやすいし、漫画作品のクオリティだってなかなかあがってこない。コロコロコミックにしたって『ウソツキ!ゴクオーくん』や『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』などのような非タイアップ作品のほうがよほど期待できたりする。
みんな東映やバンダイシステムを目指してしまう
近年の東映とバンダイのタイアップ関係は、玩具ビジネスモデルの最も成功した形といえる。プリキュア、戦隊シリーズ、仮面ライダー、これらは一年ごとに新たなタイトルに切り替わる。その度に、変身グッズ、ロボット、変身ベルトなどが一新される。前回までの作品のグッズはたちまち古くなる。すると新たにわかりやすい需要が換気される。
普通はこんな無茶なことは中々できない。主人公を一新して、設定も一新して、なんで一定の人気が継続するという読みが成立するのか。しかし今のところこのサイクルは10年以上続いている。プリキュアブランド、戦隊ブランド、仮面ライダーブランドが確立して一定数の信者を獲得したという手応えがあるのだ。信者たちは、あたかも、グッチやシャネルのブランド品の新作モデルに注目するように、「プリキュア」「戦隊」「仮面ライダー」と名前のついているだけの毎年の作品を視聴してそのグッズを買い漁る。もちろん自分の子供に買い与えるという名目で買う大人も多い。こうなってくれば商売としては何も言うことがない。子供向け漫画ビジネスを手がける業界からすればアガりの姿を見せつけられているようなものだ。これが究極の理想の形として認識してしまっている人間も多い。
しかし本当にこれだけが唯一の解答だったのだろうか。たとえば人気のあったライダーやプリキュアを、10年引っ張って大儲けするようなビジネスだってあり得たのではないか。スポンサーであるメーカーの意向に沿う形にしか答えがないような世界は少し哀しい気がする。
同じくバンダイが商品を展開して大儲けしているコンテンツに鳥山明の『ドラゴンボール』があるけど、これに関しては玩具のしばりで物語が作られたわけでも何でもないのは読めばすぐにわかる。しかし『ドラゴンボール』が生み出した利益は途方もないものだ。子供から大人まで幅広い層に人気の漫画に、ただただ玩具が便乗しているだけだ。こういうのだってひとつの勝利パターンではないか。もちろん『ドラゴンボール』なんていう20年に一度くらいの作品が、ぽんぽこ作れたら誰も苦労しないわけで、じゃあどうすんねんと言われたら困るけれど、少なくとも一年交代の玩具ありきのシステムでは百年かけても『ドラゴンボール』は生み出せないのは明白だ。だいたい『サザエさん』や『ドラえもん』や『アンパンマン』にしたってそうではないか。
ダッフィー✕ジェラトーニに見るディズニーのキャラクタービジネス
http://fantasy.tokyodisneyresort.jp/tds/duffy/gelatoni/
ジェラトーニ公式サイトより
ディズニーランドのキャラクターのダッフィーとジェラトーニが大人気だそうだ。ダッフィーなんてキャラクターは知らなかった。そりゃディズニーのアニメに出てこないキャラだから知らなくて当然。ディズニーランドとかディズニーシーが展開しているキャラクターだ。しかも日本で考えたというから驚く。元々は本国であってスカったテディベアのアイデアを再利用したようだが、ディズニーにはローカルで独自キャラを作っても構わないというような融通の効く部分があったのだ。
ディズニーといえば子供向け映像およびキャラクタービジネスの最大手だけど、コロコロコミックどころではなく、子供向けジャンルという縛りの中で追い込まれていった時代が何年もあった。「ディズニーらしい」とか「ディズニーぽい」という言葉が、「子供だまし的な」とか「薄っぺらい」という文脈で使われているのは御存知だろう。
「子供向け」という言葉にはどうも自家中毒症を起こすような成分が含まれているとみえる。やってる方も悪い意味で「子供向けだから」とか「こんな程度で良い」などと開き直りがちだ。そうすると大人のファンのハートはぐんぐん離れていってしまう。大人に成長したファンのハートを掴んでないと何が不味いかというと、子供にアニメを見せたり玩具を買い与えたりするのは親なのだ。親世代がバカにするようなものは自分たちはもちろん、子供だって近づけようとしない。そういうことに気がついてからは、ディズニーはひたすら子供の顧客が一生顧客でいるように仕向ける戦略にシフトし始めた。ディズニーランドも子供の夢の国というコンセプトから、子供から大人から老人までが夢を見る国という悪夢のようなコンセプトに変化していった。
アニメや映画にしたって、ディズニーは子供しか見ないという概念は捨てて、あきらかに大人の観賞を意識した内容になってきている。日本の子供向けアニメだって『ケロロ軍曹』とか『妖怪ウォッチ』なんかで、対象にしている子供には絶対にわからない、親世代以上の年齢の人間にアピールするようなパロディばっかり仕掛けてくるのだ。ディズニーはもっと高度なことをやっている。一時期のアニメ映画の低迷がウソのように『シュガー・ラッシュ』や『アナと雪の女王』で復活したのは偶然ではない。ピクサーが『トイ・ストーリー3』や『ミスター・インクレディブル』や『カールじいさんの空飛ぶ家』などの一連の作品でやってのけた「子供向けアニメを装った大人向けアニメ映画」というスタイルを見事にフィードバックさせている。
そんなディズニーの日本でのトレンドが熊と猫のボーイズラブ的な売り方だ。完全に子供を無視。もちろん子供だって入りやすそうなビジュアルをしているのは重要。しかしあくまでもターゲットはある程度の年齢の女性。そしておっさんなのだ。そして日本のディズニーランドで盛り上がった実績は本国にフィードバックされるだろう。その時にディズニーは、どんな戦略を打ち出していくか。興味は尽きない。
ディズニーの闇。『ダッフィーおじ』の話。ぜひラジオで聞いてください。
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