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富野由悠季監督フィルモグラフィーを考える
手塚治虫の虫プロからアニメのキャリアを開始した富野由悠季。1963年の初の国産連続TVアニメ『鉄腕アトム』から関わって、1972年の『海のトリトン』では実質の監督も務める。同じ年の生まれの宮﨑駿は、富野がアトムに携わる前からすでに東映動画で、高畑勲らとフルアニメーションの制作をしていた。日本にリミテッドアニメの道をつけてしまったアトムからキャリアをスタートさせて今に至る富野由悠季というのはTVアニメの申し子と言って良いと思う。アニメーションの王道ともいえるマンガ映画制作会社からスタートした宮﨑駿や高畑勲はあくまでも映画人だった。仕事のやり方も方法論も違いすぎて当然だ。富野由悠季がアニメ映画に積極的になれないのも仕方がないとはいえる。
1975年には初の巨大ロボットものTVアニメの監督を務める。『勇者ライディーン』だ。『マジンガーZ』から始まる巨大ロボットアニメブームの系譜に連なる作品である。これは諸事情で前半だけで降ろされてしまったが、その後は『ラ・セーヌの星』の後半の監督を務めたのちに、虫プロの残党が作ったサンライズ制作の『無敵超人ザンボット3』を1977年に監督した。これが富野の命運を決めたのか。
ここから1978年『無敵鋼人ダイターン3』1979年『機動戦士ガンダム』1980年『伝説巨神イデオン』……とロボットロボットロボット!!!!!なのである。もうこれ以降は99%はロボットだったかと思う。しかも人が乗り込める巨大ロボット。どうしてこうなった。
それでもダイターン3以来のコメディタッチの活劇『戦闘メカザブングル』や、自身の創りだしたファンタジー世界と昆虫ロボットの融合である『聖戦士ダンバイン』や永野護のセンスを前面に押し出した『重戦機エルガイム』などそれなりに意欲的な作品にとりくんだがどれもふるわず。
1985年にガンダムの続編である『機動戦士Ζガンダム』の制作を嫌々ながら引き受けてしまったのが決定打になる。これ以降はほとんどガンダムガンダムガンダムガンダム!!!の人になってしまった。
1998年『ブレンパワード』や2002年『オーバーマン・キングゲイナー』2005年『リーンの翼』などのガンダム以外の連続アニメ作品もかろうじて作ってはいるがやはりふるわず(キングゲイナーは踊るOPアニメだけブームになった)。しかもこれもぜんぶ巨大ロボットもの。ほかは御存知の通り2014年『ガンダムGのレコンギスタ』に至るまでガンダム尽くし。どうしてこうなった。
ちなみに富野由悠季監督の劇場用作品は以下のとおり。
『機動戦士ガンダム』(1981)
『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』(1981)
『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』(1982)
『The IDEON (伝説巨神イデオン)接触篇/発動篇』(1982)
『ザブングル・グラフィティ』(1983)
『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』(1988)
『機動戦士ガンダムF91』(1991)
『劇場版 ∀ガンダム I 地球光/II 月光蝶』(2002)
『機動戦士Ζガンダム 星を継ぐ者』(2005)
『機動戦士ΖガンダムII 恋人たち』(2005)
『機動戦士ΖガンダムIII 星の鼓動は愛』(2006)
こうしてみると、ガンダム三部作とZガンダム三部作は同じペースで公開されたんだな、という以外の感想としては「おお…もう…」としか言うことがない。
オリジナルの劇場用アニメとしては『逆襲のシャア』と『機動戦士ガンダムF91』の2本があるだけなのだ。この2本は高く評価されているがどちらもガンダムなのにはかわらない。
他の作品はTVアニメの総集編。富野由悠季最高傑作だと考えられている『イデオン発動篇』にしたってテレビの続きの話だ。なんでこれほどまでに映画の方面には報われていないのだろうと考えざるを得ない。やはり本人にそうした志向が無いのかと。
イデオンのソフトはどれもこれも割高。やはりマニアにしか売れないのだろう。ガンダムとあまりにも違いすぎる。作品は良いのに。
ちなみに、単なるテレビの総集編とはいえ『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』の評価はとても高い。安彦良和の新作カットに拠るところも大きいけれどそれをまとめあげたのは富野であることには変らない。『イデオン発動篇』の湖川友謙の超絶な作画を活かしたのも富野。映画の才能が無いわけではなかったと思うのだが。(ただし『イデオン接触編』はゴミ。これは富野本人も認めている。)
唯一の劇場オリジナル作品の『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』は、庵野秀明をはじめとして信者が多数存在するくらい優れたガンダム作品(もうそうとしか言いようがない)でもあった。『機動戦士ガンダムF91』もセールス的には評価されなかったそうだが、僕個人としては富野由悠季監督のオリジナル劇場アニメとしては最高傑作だと思っているしこれ以上に納得のいくガンダムの続編は無いだろう。
フィルモグラフィーを見返せば見返すほど、富野由悠季はガンダムに魂を引かれた存在だと思い知る。
今回のラジオではそのへんの事も語っているのでぜひ聞いて下さい。
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