ディズニーと『ハイスコアガール』著作権問題続報
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http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1410/08/news100.html(ITmediaニュースより)
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まさかのスクエニ逆ギレ
スクエニによる『ハイスコアガール』の著作権侵害事件についての説明記事(『ハイスコアガール』にSNKプレイモアがキビシイ理由)を書いたが、またとんでもない事態に発展してきたようだ。
http://www.jp.square-enix.com/company/ja/news/2014/html/86657a6d3e3e054d1c736e4a5624403c.htmlから以下引用
株式会社スクウェア・エニックス(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:松田 洋祐、以下「当社」)は、本日、株式会社SNKプレイモア(以下「被告」)を相手方として、債務不存在確認請求訴訟を大阪地方裁判所に提起いたしましたので、お知らせします。
当社が出版する漫画「ハイスコアガール」が被告の著作権を侵害しているとして、被告が当社及び当社出版部門関係者を刑事告訴した結果、当社は、2014年8月5日に大阪府警察本部及び同曽根崎警察署による家宅捜索を受けました。
当社としましては、上記の刑事告訴を受け、被告が主張するような著作権侵害の事実がないことの確認を求めて本件訴訟の提起に踏み切ったもので、当社の主張の正当性を民事訴訟の場において明らかにしていく所存です。
なお、当社は、上記の家宅捜索以降、警察当局による捜査に対して全面的に協力しており、引き続き誠意をもって対応してまいります。
ここにきて、スクエニによる、まさかの逆提訴。
SNKプレイモアは著作権侵害の刑事告訴だったが、スクエニは民事訴訟で逆襲してきた。著作権侵害側が訴え返すとは、盗人猛々しいように感じてしまうが、スクエニ側の意図を検討してみよう。
『債務不存在確認訴訟』とは、簡単に言うと、サラ金の借金整理なんかするときに、「利息を払い過ぎてますので、もうこれ以上の返済義務はありませんよね。裁判所にも認めて貰います。これによって私の借金はゼロになります。」みたいな事をする時に使う訴訟である。
つまりこの場合はどういう意味かというと「『ハイスコアガール』のマンガによって、SNKプレイモアの著作権侵害をして得た利益はゼロであることを裁判所に認めてもらう」という事だ。
「SNKプレイモアが権利を持つゲームのマンガ内の描写は、著作権侵害ではなく単なる引用である」と裁判所に認めて貰えば、今後の交渉において、SNKプレイモアに対する賠償金を大幅に制限することが可能になる。もしくはゼロにすることだって出来るかもしれない。たしかにそうなれば、スクエニにとっては多いに有益だ。そうなるのであるならば、この訴訟は意味のある行為だろう。
では、スクエニ側は、「著作権侵害は無かった」と裁判所が認めてくれだろうという何か根拠があって、逆訴訟に踏み切ったのかどうかという問題だ。先に挙げたサラ金の話では、グレーゾーン金利を利用した法的に高すぎる金利について、再計算しましょうというのが訴訟の根拠になっている。本事件においては、どこまでが引用で、どこからが著作権侵害かという事が法的に証明出来るのかという話だ。
引用の拡大解釈は可能か
はっきり言えることは、『ハイスコアガール』内におけるSNKプレイモアのゲームの描写は、法律において引用として定義されている要件を完全に逸脱しているということ。しかし、スクエニとしての主張は「当時の時代を描写する上で、ありのままに表現しただけであり、SNKプレイモアの利益を損ねたわけではない」という事だろうが、それが裁判で通用するかどうか。
例えば、ゲーム内に起きる事柄についての写真やイラストによる描写が、すべて著作権侵害に当たるならば、ゲームの攻略記事などもすべて著作権侵害にあたるという主張もある。しかしこれについては著作権侵害だろうと考えられる。著作者に了解をとっていない画像やイラストによる攻略記事は、完全に引用の範囲を超えている。しかし、たいていのゲーム雑誌は、メーカーとの相互協力という立場で上手くやっているし、同人誌やファンサイトのようなものはお目こぼしを受けている。スクエニのように喧嘩腰の態度のところは無いのだ。
もうひとつの意図としては「SNKプレイモアの利益を損害したとしても、『ハイスコアガール』の利益に対して、ごくごく限定されたものである」ということもあるだろう。引用と認められないまでも「アンタのネタで、そんなに稼いだわけじゃないよ」という証明を得れば有利だ。しかし喧嘩腰には代わりがない。
SNKプレイモアの権利はどこまであるのか
「SNKプレイモアには著作者人格権が無いのでは?」というツッコミもいただいた。
「著作者人格権」の中に「同一性保持権」というのがある。著作者の意向を無視して勝手に内容を変えちゃイカンという法律だ。勝手なイラスト化や、引用の度合いを超えた改変などがこれに抵触するかもしれない。そして「著作者人格権」というのは著作者のみに発生する権利であって、譲渡や相続は基本的に出来ないとされている。つまりSNKが消滅した時点で、著作者が死亡したのと同じであり、継承者であるSNKプレイモアには「著作者人格権」は無いから、金銭に絡む問題以外でとやかく言えないハズだとする考え方だ。
「SNKプレイモア自身かて、SNKが消滅したのを良いことに、勝手な続編やリメイクなどを開発して好き放題やってるやないか!」
なるほど、これはこれで面白い観点である。ところで、SNKプレイモアは、旧SNKから知的財産権の一括譲渡を認められている。知的財産権の代表的なものはもちろん著作権だ。これには翻案権も含まれているわけだから、SNKプレイモア自身については、勝手な続編(KOFの新作)を作っても、勝手なリメイク(KOF’98umみたいなの)を作っても構わない。そして翻案権は独占排他的な権利であるから、例えばスクエニが勝手にこれを行使するのは当然ながら権利の侵害にあたる。
ちなみに、翻案権は、著作者人格権の中の「同一性保持権」とかち合う権利だ。これについては著作者が別に存在する場合は、「翻案権」と「同一性保持権」との対立が生ずる場合があり、どちらが優先されるかは統一された見解は無い(だって翻案権を他人に売った本人が、売った相手にわざわざ喧嘩を売るなどという理不尽な事態はあまり想定されていないから)。今回の場合について、著者社人格権がSNKの解散と共に消滅していると考えるのであれば、SNKプレイモアの翻案権を妨げる要素は無いということになる。
結局はスクエニの乱暴な態度が…
『ハイスコアガール』にSNKプレイモアがキビシイ理由にも書いたが、今回の件がこじれている最大の問題は、スクエニの一部メーカー以外への舐めた態度だ。普通に考えれば、SNKプレイモアに対して平身低頭謝罪して、なんとか賠償金をまけて貰う方向で話し合うのが上策であると考えるのであるが、まさかの真っ向勝負である。これでは盗人猛々しいと思われても仕方が無い。
そもそも、カプコンとバンダイナムコゲームスに対して、連載前から商業的なコラボ契約をしていたというのが既に発覚している。セガは事後承諾で、怒られたようだが、お目こぼしとして許可したようだ。
カプコンとバンダイナムコゲームスとセガとは契約していた
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1408/06/news130.html
セガは事後承諾
http://www.sankei.com/west/news/140901/wst1409010067-n3.html
再三述べるが、ゲーム会社によって対応を変えたスクエニの傲慢な態度と、これらのダブルスタンダードが問題をこじれさせているのだ。カプコンやバンダイナムコゲームスとは、コラボ商品を出す必要性だけで許可を求めたわけでは無いはずだ。マンガ内の描写についてのあれこれの許可の筈だ。事前の原稿チェックまでさせているのだ。スクエニ自身が「マンガ内で描写することに著作権の侵害がある」と認めてしまっているのと変わりがない。この事実について、スクエニはどう整合性をとるつもりだろうか。と同時に、SNKプレイモアの激しいツッコミポイントでもある。原稿チェックはあくまでもコラボ商品との兼ね合いであるとでも主張するつもりだろうか。それだってコラボ商品を出さないメーカーの著作権なんてどうでもいいと言ってるようなものだ。
スクエニが、カプコンとバンダイナムコゲームスを再優先したのは、企業規模とゲーム業界における影響力を重くみたためだ。三社の中で、セガの扱いが悪かったのは、セガが既にサミーの傘下の一企業であり、『バーチャファイター』にしても今や『鉄拳』の後塵を拝するようになり、ゲーム業界への影響力が低下しているからだ。SNKプレイモアなどは眼中にも無かったというのが正直な話だろう。
現にSNKプレイモア以外の無断使用をされた各弱小メーカー(あくまでも「スクエニ視点」における)は、現在においてもこれといった抗議をしていない。せいぜい『桃太郎電鉄』の製作者が、スクエニから謝罪文が来たというのを暴露したくらいだ。だからSNKプレイモアひとりだけがムキになっているだけ、空気を読まないだけ、と解釈するのは非常に日本的でもある。本来はSNKプレイモアみたいに怒っても良いけど、怒ってないだけなのである。その辺もスクエニ側を勘違いさせている要因のひとつなのかもしれない。
SNKプレイモアはゲーム業界のディズニーなのか?
世に著作権問題に五月蝿い企業というのは確かにある。そういう企業というのは五月蝿くなるだけの理由があったりするわけで、例えば著作権問題といって真っ先に思いつくのが世界のディズニーだ。そう、スクエニとも『キングダムハーツ』シリーズなどでコラボレーションしたあのディズニーである。
なぜディズニーが著作権について厳格になったかという事はあまり知られていなくて、ウォルト・ディズニーが駆け出しの頃(1927~1928年ごろ)にオズワルド・ザ・ラッキー・ラビットという人気キャラクターを作り出した。しかしこれを何時の間にかアニメの配給元のユニバーサル・ピクチャーズに権利を取られてしまったのだ。悔しくて仕方がなかったディズニーは、それ以上の人気キャラクターになるミッキーマウスを考えだすのだが、著作権についてはものすごく神経質になった。
SNKプレイモアが著作権に神経を尖らすようになったのは、ユニバーサルエンターテインメント(当時「アルぜ」)に自社のキャラクターを無断使用されたからだ。
両社に共通しているのは、ユニバーサルと名のつく会社に恨みがあることだ……というのは冗談であって、自社の利益を侵害しそうな案件には容赦なく対抗するということであり、それ以外の利害の対立のないファン活動には案外おおらかなところ。ディズニーも許可さえとれば非営利のキャラクター使用は認めてくれるし海外での同人活動も盛んである。SNKプレイモアが同人誌を訴えたという話も聞いたことがない。
結局は、スクエニの出版部が、同人活動の延長の感覚で商業マンガを発表してしまった事と、同業者に対する企業態度が非常に舐めたものであったということに尽きるのではないか。同人マンガと、商業マンガの線引が曖昧になってきておる昨今において、そういう感覚に陥るのもありそうといえばありそうだが、意義を申し立てられた以上はジタバタしても始まらないハズなのだが。
著作権でガチガチなのを賛成するわけではないけれど
この裁判の行方がどうなるかは誰も知らない。無責任なようだけど、裁判官の判定は主観的なものであって、時にとんでもない事態すら引き起こす。もしスクエニの主張が認められるような事になれば、良くも悪くもエポックな事件になると思われる。今後の判例として扱われるべき案件だ。
ゲームメディアというのは、この四十年ほどの間に、急速に発展を遂げてきた分野であり、それ以前では考えらないくらい文化に食い込んできたものだ。『ハイスコアガール』のように、ある時代や特定のジャンルを語る上で、描写として避けられない事態は今後も増えてくるだろうし、その度に許可を得なければいけないとしたら、非常に堅苦しいことだし、表現の幅も狭めてしまう。いずれはきっちりとした法整備が必要になってくる問題だったのは間違いがない。
これを書いている僕(BS@もてもてラジ袋ぶたお)は著作権に対して異常なほど目くじらを立てる立場を擁護するわけでも何でもないし、例えばディズニーによる「ミッキーマウス保護法」(著作権の延長)のようなものは文化的側面から考えるに「果たして如何なものか」と思わないでもないが、だからといって企業が傲慢な態度で他者の著作物を扱うことには大いに疑問が残る。
さて、裁判所がどういった判断を下すか。興味をそそられる。
それにしたって、返す返すも、著者の押切蓮介氏にとっては迷惑に違いない。『ハイスコアガール』は最大のヒット作であるし、アニメ化目前でもあったのにまさに天国から地獄である。無能な編集部のせいで、漫画家としてのキャリアに傷がついてしまったら笑えない。いちばん損害賠償を求めたいのは著者ではないか。(その後のニュースで著者まで書類送検されてしまった。御愁傷様としか言いようが無い。)
『ハイスコアガール』の元ネタになった出来事が描かれている自伝的要素の強い作品『ピコピコ少年』は当然ながら問題になってないし普通に売っている。あくまで恋愛ではなくてゲーム主体の漫画……だ。買ってあげて!
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